大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和28年(モ)16308号 判決

香港租界ヴイクトリア・ウオン・フアン・テラス二番地

(日本における最後の住所)

東京都千代田区丸の内一丁目二番地

ホテル東京三百二十一号室

債權者

李文源

右訴訟代理人辯護士

島野武

大橋光雄

野間彦蔵

アメリカ合衆国ニユーヨーク市ロングアイランド・ロスリングハイツ・シユバード通百六十二号

アーヴイング・ホージヤー方

(日本における最後の住所)

東京都品川区北品川四丁目七百四十番地

債務者

ハロルド・エヌ・ポージヤー

右訴訟代理人辯護士

浅野昇

右当事者間の昭和二十八年(モ)第一六、三〇八号仮処分決定に対する異議申立事件について、次のように判決する。

主文

当裁判所が債権者、債務者間の昭和二十八年(ヨ)第七七三二号仮処分命令申請事件について昭和二十八年十一月十六日にした仮処分決定を認可する。

訴訟費用は債務者の負担とする。

事実

債権者訴訟代理人は、主文第一、二項と同趣旨の判決を求め、その申請の理由として、

一、債権者は、昭和二十五年八月債務者及び申請外一名の者との間に、ポージヤー・トレイデング・カムパニー(以下単にポージヤー商会という)という名称で、わが国において、共同して外国製生地の輸入及び販売業を営むことを約し、東京都千代田区丸の内一丁目二番地ホテル東京第三百三十九号室を事務所として英国製洋服生地等を輸入し、東京都を中心としてこれを販売していた。債務者はもと米国軍人たる米国人で、当時外国製品の輸入許可を得るについて便宜があつたので右のように同人の氏名の一部を冠した商会の名称を用いたのである。

その後、申請外一名の者はポージヤー商会より脱退し、昭和二十六年五月に債権者は債務者との間に、債権者において財産(約四十五万ドル)を出資し、債務者において労務を出資して、あらたにポージヤー・トレイデイング・アソシエイツ・インコーポレイシヨン(以下単にポージヤー会社という)の名称で、ポージヤー商会と同じく、わが国において共同して外国製生地の輸入及び販売業を営むことを約し、ポージヤー商会の前記事務所を営業所として、東京都を中心として貿易業を営んでいた。

このように、ポージヤー会社は、本来債権者と債務者がそれぞれ出資して共同の事業を営んでいた民法上の組合であるが、同会社については米国デラウエア州会社法に準拠し、イー・ジー・サルモンス、イ・アール・ステール及びアール・ユー・シユワルツという三名(その住所はいずれもデラウエア州ドーブアー市)において西暦千九百五十一年(昭和二十六年)二月二日定款を作成し、公証人の認証を受けたうえ、同月六日同州ドーブアー市において設立の登記がなされ、同千九百五十二年(昭和二十七年)八月二十日東京都千代田区に商法第四百七十九条に基く営業所を設置したものであるとして、同年十月三日東京法務局日本橋出張所においてその旨の登記がなされている。

しかしながら、ポージヤー会社は登記簿上、その本店の所在地が米国デラウエア州ケント郡ドーブアー市となつているのみで、同会社の意思決定機関を構成すべきその取締役の全員である債権者、債務者及び申請外レイモンド・ブツシエルの住所はいずれも東京都内にありそのうち債務者は同会社の代表取締役で、同時に日本における代表者である。もつとも債務者は昭和二十八年七月中旬日本国外に逃亡し、債権者は現在一時香港に帰国している。

他方、米国デラウエア州ドーブアー市には、ポージヤー会社の関係者は一人もなく、また、同会社は同市においてはもとより、米国のどのような地においても営業をしたことは一度もない。従つて、ポージヤー会社がその本店を米国デラウエア州ドーフアー市に置き、その旨の登記を経由したとしても、右本店は単に名義上のものであつて、東京都内に存する前記営業所と称するのがとりもなおさず本店にほかならず、且つ同会社はもつぱら日本において営業をすることを目的とするものである。

商法第四百八十二条の規定によれば、日本に本店を設け又は日本において営業を為すことをもつて主たる目的とする会社は、外国において設立するものといえども、日本において設立する会社と同一の規定に従うことを要するのであるから前記のように日本に本店を有し、且つもつぱら日本において営業をすることを目的とするポージヤー会社はたとえ米国デラウエア州法に準拠して設立されたものであるとしても、わが商法所定の会社設立の要件を具備すべきものであるところ、同会社は単に商法第四百七十九条に基いて営業所を設けているのみであり、しかもこのような場合、同営業所の設置は許すべからざるものであるから、右営業所は又法律上不存在のものである。従つて、債務者は右営業所が法律上不存在であることを前提としてポージヤー会社の代表取締役としても、日本における代表者としても同会社名義の財産を管理処分し、且つ取引を継続してすることはできない。

ところが、債権者が昭和二十八年七月七日に所用のため帰国して不在中、債務者はこれを奇貨として、本来前記のような債権者及び債務者の契約による組合財産の大半に相当する約三億円相当の商品をポージヤー会社の代表取締役兼日本における代表者であるとして売却し、その代金を拐帯して同月十七日フイリツピン方面に逃亡したうえ、申請外ブツシエルに対しその権限を行使することを委任しその後他の弁護士にも委任して約六百万円を超える債権の取立商品等の売却処分をなし、仮処分申請、訴訟の提起等をしている。

そこでもし、債権者のポージヤー会社が外国会社でないことの確認、前記営業所不存在の確認又は債務者に対し同会社の代表取締役及び日本における代表者としての職務執行の停止等を求める本案訴訟の判決が確定するに至るまで、このまま放置するにおいては、著しい損害を受けるおそれがあるので、仮処分命令を申請したところ、昭和二十八年(ヨ)第七七三二号として同年十一月十六日債務者に対し、本案判決確定に至るまで、仮に債務者がポージヤー会社の代表取締役及び日本における代表者の職務の執行をすることを停止し、右職務執行停止期間中、同会社の日本における代表者の職務代行者として弁護士右田政夫を選任する旨の仮処分決定がなされた。この決定は至当なものであるから、これを認可する旨の判決を求める。」と述べ、

債務者の主張に対し、「債権者がすでに提起したポージヤー会社が外国会社でないことの確認を求める本案訴訟において、債務者を被告としていることは認める。」と述べた。

債務者訴訟代理人は、「主文第一項表示の仮処分決定を取り消す。債権者の本件仮処分命令申請を却下する。訴訟費用は債権者の負担とする。」との判決を求め、答弁及び異議理由として、

「債権者主張の事実中、債務者がもと米国軍人たる米国人であつて、債権者との間にそれぞれ出資したうえ、ポージヤー・トレイデイング・カムパニーという名称で共同事業を営むことを約したこと(ただしその時期は昭和二十六年五月である。)ポージヤー会社が東京都千代田区ホテル東京第三百三十九号室に営業所を有し、毛織物の輸入及び販売を目的とし、繊維製品の輸入をしていたこと、ポージヤー会社につき債権者主張のような外国会社の営業所設置の登記が存すること、債権者が香港に帰国し、債務者が帰米したこと、債務者及び申請外ブツシエルが債権者主張のころ東京都内に常住していたこと、債務者が債権者の商品を処分したこと、債務者が債権者主張のころ、仮処分命令の申請及び訴訟の提起をしたことは認めるけれども、その余の事実はすべて否認する。

ポージヤー会社は昭和二十六年一月に設立された米国デラウエア州に本店を有する外国会社で、当初いわゆるS・P・Sを目的として日本に営業所を設け、現に前記ホテル東京第三百三十九号室に営業所を有し、債務者が代表取締役兼日本における代表者、債権者が取締役副社長兼会計役、ブツシエルが取締役であつて右営業所につき日本における代表者の住所及び氏名とともにこれを登記し、その発行する株式の総数は二百株で、発行済の株式百株のうち五十一株が債務者に、四十九株が債権者にそれぞれ交付されている。

このように、ポージヤー会社は日本における所要の登記を経たものであり、外国会社として何人にもその存在を対抗することのできる法人性を有し、右登記の日以後その名において取引をし、財産を取得して現在に至つているのであるから同会社が外国会社ではないものとし、又は右営業所が法律上不存在なることを前提とする債権者の本件仮処分申請は失当である。

次に、第一、債務者が本件仮処分決定に対してした申請に基き発せられた起訴命令により債権者の提起したポージヤー会社が外国会社でないことの確認を求める本案訴訟は、同会社を被告とせず、債務者を被告とするものであるが、同会社は既に所要の登記手続を経て法人格を有するのであるから、同会社を被告とすべく、債務者を被告とするのは被告としての当事者適格を欠くのみならず、仮に同訴訟において債権者勝訴の判決が確定したとしても、ポージヤー会社及び登記官吏に対し何らの対抗力がないから、ポージヤー会社の登記及びその日本における代表者の職務代行者右田政夫の登記はいつまでも抹消されることがないという不条理な結果を招来し、結局、右本案訴訟は前記起訴命令の趣旨を充たさず、本案訴訟の提起がないものとして本件仮処分決定は取り消されるべきである。

第二、ポージヤー会社は外国会社として登記され、法人性を有し本件仮処分決定は右法人性を基礎として発せられているのであるから、本件仮処分訴訟は先ず商法の規定に従つて審理されなければならないのに、商法会社編には外国会社不存在確認訴訟を本案訴訟として仮処分をもつて日本における代表者の職務の執行を停止し、代行者を選任することができる旨の規定はなく、会社について商法の規定に基かぬ仮処分は許されるべきではない。第三、本件仮処分がポージヤー会社が民法上の組合であつて、債権者債務者間の組合財産についての権利関係を保全しようとするものであれば、債権者は仮差押又は特定物に対する仮処分によりその権利の実行を保全すれば事足りるのであるから、本件仮処分は明らかに保全の必要の範囲を逸脱するもので、取り消されるべきである。

第四、仮に、債権者の本案訴訟がポージヤー会社を被告とする外国会社不存在確認訴訟であるとしても、同訴訟は商法の規定に基くものではないから右外国会社不存在確認の判決と同時に、ポージヤー会社は清算手続に移行する法的根拠なく、同会社の登記は抹消され、代行者の地位は消滅するに至るべきものであり、またその間同代行者の権限の範囲、監督に関する法的根拠がないという不合理があるから、少くとも同代行者を選任する本件仮処分決定の部分は取り消されるべきである。」と述べた。

債権者訴訟代理人は、疏明として、甲第一号証の一、二、同第二ないし第四号証、同第五、第六号証の各一、二、同第七ないし第十号証、同第十一ないし第十三号証の各一、二、同第十四号証の一ないし三、同第十五号証(第十六、第十七号証は欠号)、同第十八号証の一ないし五、同第十九号証の一、二(甲第十八号証の一ないし五及び同第十九号証の一、二はいずれも写)を提出し、証人寺木月子の証言を援用し、乙第四、第六号証の成立は不知、その余の乙号各証はその成立(乙第五号証はこれに対応する原本の存在をも)を認め、利益に援用すると述べた。

債務者訴訟代理人は、疏明として、乙第一号証の一、二、同第二ないし第六号証(乙第五号証は写)を提出し、甲第二ないし第四号証、同第九号証、同第十三号証の一、二の成立は不知、その余の甲号各証の成立(甲第十八号証の一ないし五及び同第十九号証の一、二はこれらに対応する原本の存在をも)を認め、甲第五、第六号証の各一、二、同第十八号証の一ないし五を利益に援用すると述べた。

理由

ポージヤー会社について、同会社が米国デラウエア州法に準拠し、西暦千九百五十一年(昭和二十六年)二月六日に成立した会社で同州ケント郡ドーブアー市を本店所在地とし同千九百五十二年(昭和二十七年)八月二十日東京都千代田区に営業所を設置したものであるとして、同年十月三日東京法務局日本橋出張所においてその旨の登記がなされていることポージヤー会社が東京都千代田区丸の内ホテル東京第三百三十九号室にその営業所を有していたこと及び債務者がもと米国軍人たる米国人で、レイモンド・ブツシエルと同じく、東京都内に一定の住所を有していたことは当事者間に争いがなく、その取締役の全員である債権者、債務者及び申請外レイモンド、ブツシエルの住所がいずれも東京都内にあり、債務者は代表取締役で同時に日本における代表者であるとされていることは債務者の明らかに争わないところである。

以上の各事実に、成立に争いのない甲第一号証の一、同第五号証の一、同第十号証、同第十一号証の一、同第十四号証の一ないし三、同第十五号証、同第十八号証の一、同号証の三ないし五(原本の存在についても争いがない。)乙第二、第三、第五(原本の存在についても争がない。)号証、同第五号証により真正に成立したものと認められる同甲第四号証、証人寺木月子の証言により真正に成立したものと認められる甲第二号証に右寺木証人の証言を考え合わせると、債権者は西暦千九百五十一年(昭和二十六年)五月以来債務者及び外一名とポージヤー・トレイデイング・カムパニー(ポージヤ商会と略称する。)という名称で外国製洋服生地の輸入及び販売の共同事業を営んでいたが同年七月その営業の全部即ち店舖、在庫品、各種輸入許可証、債権及び債務等を名目上の代金一ドルでポージヤー・トレーデイング、アソシエイツ・インコーポレイシヨン(ポージヤー会社と略称する。)に譲渡し、そのころポージヤー会社の発行する全株式百株のうち五十一株を債務者、四十九株を債権者が各所有することとし債務者は同会社の代表取締役債権者は取締役兼経理部長、申請外レイモンド・ブツシエルは取締役兼法律顧問となり右三名で同会社の意思決定機関を構成し、いずれも東京都に居住して前記譲受にかかる営業を東京都を中心として日本国内において継続し、その間西暦千九百五十二年(昭和二十七年)前記のとおり東京都に営業所を設置したものとしてその旨の登記を了したこと、一方、同会社は前記設立以来米国においては何等の営業行為をなさず、また、店舖その他の施設及び従業員もなく、日本においても右ポージヤー商会から営業の譲渡を受けるまではポージヤー会社の名においては何らの見るべき事業をなしていなかつたことが疏明される。

然らばポージヤー会社は、右営業の経過及び態様から見れば少くとも日本に営業の本拠を置き、日本において営業をなすことを主たる目的とする会社というべきであつて、このような場合その米国デラウエア州における設立の有効、無効の判断は別として、商法第四百八十二条の趣旨からすれば、日本における会社と同一の規定に従い設立手続その他の手続をなすべきであつて、前記のように同法第四百七十九条により外国会社としての営業所の設置手続をなすことは許すことのできないものというべく、債務者はその他にポージヤー会社が外国会社として日本において有効に継続的取引行為をなし得ることの主張及び疏明をなさないから同営業所が法律上存在することを前提として日本において取引を継続してなすことはできないものである。そうして右営業所が法律上存在するか否かは、同会社が日本におて有効に継続的取引行為をなし得るか否かの基礎となる法律関係というべきであるから、訴をもつて右法律関係の存否の確認を求める利益があるものと解すべきである。

然るに、一方債務者はポージヤー会社の取締役及び日本における代表者として同会社の名において取得された商品の売却、債権の取立等継続的取引行為をして来たことは前認定のとおりであり、また甲第二号証、同第十一号証の一、成立に争いのない甲第十九号証の一(原本の存在についても争いがない)、前記寺木証人の証言に弁論の全趣旨を考え合わせると、債務者は債権者が昭和二十八年七月七日に香港に帰国した後(債権者が帰国した事実は争いがない)もポージヤー会社の代表取締役及び日本における代表者の資格で同会社名義の多量に上る商品を処分して同月十七日日本を出国し(債務者の商品処分及び出国の事実は争いがない)、その後申請外ブツシエルをしてポージヤー会社の日本における代表者の権限を代行させて残存商品の売却及び債権の取立等をさせている事実の疏明が得られるので、斯くしては、ポージヤー会社の名において保有されている資産に損害の及ぶおそれがあるものというべく、債権者は右資産に対しては前認定の関係に基いて権利(果して組合契約に基くものであるか否かは別として)を有することは明であるから、債権者において同会社が外国会社として設置したとする前記営業所が法律上不存在であること、又はポージヤー会社が外国会社として日本における継続取引を為す資格を有しないこと等の確認を求める訴を提起するに当り、債権者において受けるべき著しい損害を避けるため本案訴訟の判決確定に先き立ち、右法律関係を被保全権利関係として債務者が同会社の代表取締役及び日本における代表者として継続的に取引をなすことを停止するため、その職務の執行を仮に停止する必要があり、他方右停止により従来の継続的取引行為の処理その他資産の管理、保全等をもなし得ないことによる損害の発生を防止することも考慮し、代行者を選任して右必要な範囲の行為をなさしめる必要があるというべきである。

債務者は、債権者が債務者の申請に基き発せられた起訴命令により現に提起している本案訴訟においては被告を誤り同訴訟の判決の結果はポージヤー会社に及ばないから不適法であり、結局右起訴命令所定の期間内に本案訴訟の提起がなかつたことに帰着するから、本件仮処分の決定はこの点からも取消されるべきであると主張するが、もともと、仮処分異議の制度は債権者の申請に基き口頭弁論を経ないで決定で裁判をした場合に、債権者の仮処分命令申請の当否につき、口頭弁論を開き終局判決をもつて裁判をすることを求める申立であつて、仮処分の裁判をするにつき債務者をして防禦方法を提出させる道を開くためのものであるから、仮処分異議訴訟において、異議の理由として、債権者が起訴命令所定の期間内に本案訴訟を提起しない旨を主張することは、別にその理由をもつて同決定の取消申立をする場合は格別、その主張自体において理由がない。

また、債務者は、本件仮処分は商法の規定に基いて審理されるべきであるのに商法会社編には日本における代表者の職務執行を停止し、代行者を選任することができる旨の規定がないから、本件仮処分は不当であると主張するけれども、ポージヤー会社が外国会社として日本において継続取引を為す資格を有するかどうかについて当事者間に争いがあり、右法律関係の存否につき確定判決を得るに先き立ち、著しい損害を避けるため必要あるときは民事訴訟法第七百六十一条により、ポージヤー会社の日本における代表者兼代表取締役としての債務者の職務の執行を仮に停止し、その停止期間中、日本における代表者の職務の代行者を選任し得べきことは明らかであるから、債務者の右主張もまた採用の余地がない。

債務者は、本件仮処分は保全の必要の範囲を逸脱するものであり、且つ、代行者を選任する部分は不当であると主張するけれども、前記のように、ポージヤー会社が外国会社として日本において継続取引を為す資格を有するかどうかにつき当事者間に争いがあり、前記のように右法律関係の存否につき確定判決を得る必要があり、これに先き立ち、著しい損害を避けるため必要がある以上、たとえ債権者及び債務者間の財産関係の争について別に訴をもつて解決する道があり、前記本案訴訟が債権者の勝訴に帰した場合同会社の清算的処理について商法に規定が欠けていることがあつたとしても、前記争のある法律関係を被保全権利関係とする本件仮処分申請がその保全の必要の範囲を逸脱し又は前記代行者の選任が不当であるとはいい難いから、債務者の右主張も採用しない。

そうして、債権者が現に著しい損害を受ける虞れがあることは前記認定のとおりであり、また、この点につき保証をもつて補わしめるのを相当とする。従つて、債権者の本件仮処分申請は理由があるところ、右申請に基き当裁判所がした主文第一項表示の仮処分決定は前記のとおり必要と判断した仮処分の内容と当然に同一に解釈すべきであるから、これを認可すべく、訴訟費用につき民事訴訟法第八十九条を適用して、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第八部

裁判長裁判官 畔上英治

裁判官 岡田辰雄

裁判官 西村法

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例